慶應義塾大学 総合政策学部(SFC)にAO入試(総合型選抜)で合格したAさんに、高校3年間で何をして、どこでつまずき、書類と面接で何を伝えたのかを聞きました。慶應義塾大学は「AO入試」という呼び方をしていますが、区分としては総合型選抜にあたります。

この記事の要点

  • 志望理由書はバージョン60まで作り、提出したのは60版目。最初に書き出した文字数は1〜2万字
  • 志望理由書では、実績は冒頭の1段落にとどめ、残りは自分の限界と失敗に使った
  • 面接の最後は「そもそもなぜ投票が必要なのか」。対策では取れない質問だった

この方の受験の全体像

項目内容
大学・学部慶應義塾大学 総合政策学部 総合政策学科
方式AO入試(総合型選抜)/2026年4月入学・夏秋出願
選考書類審査と面接の2段階
日程出願 8月末/面接 10月中旬/合格発表 11月上旬
併願立教大学 法学部 政治学科の自由選抜入試
主な活動学生団体の設立・運営、政策立案の全国大会で活躍
活動を始めた時期高校1年生の6月
この大学を受けると決めた時期高校3年生の7月末
一般入試の勉強していない

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上の表も含め、この記事はAさん一人の経験と、Aさんが周囲を見て感じたことです。総合型選抜の一般的な正解でも、大学が公表している選考基準でもありません。

評定は、最終学年で大きく引き上げた

評定について聞くと、最終学年で大きく引き上げて平均を底上げした、という経緯でした。そのうえで、こう話しています。

「1年生の成績は絶対に取りやすいので、マジで取るべきです」

最終学年は書類作成と重なります。そこで成績を上げにいくのは、かなり無理のある進め方だった、という話でした。

書類には、受賞歴ではなく「転換点」を書いた

SFCの提出書類は複数あります。Aさんは、活動報告書と志望理由書で役割を分けていました。

活動報告書に書いたのは、コンテストの受賞歴だけではありません。うまくいかなかった経験も含めて、活動の転換点になった出来事を並べたそうです。

「自分の活動のターニングポイントを書いていくことで、この子はこういう経緯で今に至っているんだ、というのが伝わると思ったんです」

志望理由書は5つのブロックでできている

志望理由書の構成は、次の順番でした。

  1. これまでの活動と、そこで挙げた成果を書く
  2. しかし限界があった、と続ける。自分の活動が届いていない相手がいると気づいた場面を書く
  3. そこから課題設定を一段深める。誰に向けた課題なのか、対象を絞り直す
  4. 解決策として制度を提案する。ただし実現には自分に足りないものが3つある、と正直に書く
  5. だからSFCで学びたい、とつなぐ。最後は冒頭の場面に戻して締める

誇れる実績を先に置き、そのうえで限界があった、と続ける順番です。実績を出すのは最初の1段落だけで、残りはほぼ、うまくいかなかったことに使われています。

あえて、失敗と未完成さを書いた

書くうえで最も意識したのは、失敗を語ること、挫折を前に出すことでした。

「SFCは、完璧な人をあまり取らないんです。起業して、自分の実績だけを全面に出すような人は、すごくても落ちる。先輩から聞いていたので、自分もそのタイプになりそうだと思って」

先輩から聞いた話を、自分でもそう受け止めていた、ということです。そう考えたAさんが実際に何をしたかは、はっきりしています。実績は、面接で読んでもらうために最初の1段落で済ませる。その先は、どんな壁にぶつかって、どんな悔しさがあって、自分がどれだけ未完成なのか。そして、その未完成な部分を補うために、この大学で学びたい。そこまでをひと続きで伝えることに力を使ったそうです。

書類全体では、実績とプロセスを同じ分量で書いた

いま見たとおり、志望理由書は実績を冒頭に圧縮する構成でした。一方、提出書類全体で実績とプロセスのどちらを重く扱ったかを聞くと、答えは「同じウェイト」でした。

「実績も余すことなく書く。その裏でどういう工夫をしたのか、どういう感情の揺らぎがあったのか、どんな試行錯誤を経たのかも、同じ分量で書きました」

実績を隠したわけではない、ということです。書く場所と役割を分けていました。

一方で、探究テーマに関係しない活動は書かなかったそうです。ただし、書かないことと無意味であることは別だ、とも話していました。高校2年時の留学中に参加したボランティアで、紛争地域から逃れてきた同年代と親しくなった経験は、書類には載せていません。それでも「ニュースの記事の先に、本当にリアルで人に会う」体験として、自分の視点をつくったと語っています。

志望理由書は60版まで書いた ─ 書き出した文字数は1〜2万字

志望理由書はバージョン1から60まであり、提出したのは60版目でした。

やり方は、まず書き出すことでした。自分の思いをタイトル化して並べ、これは転換点だ、ここで感情が動いた、と一つずつ書き出していく。合計すると1万字から2万字になったといいます。

「今だからストレートに言えますけど、当時はきついですよね。本当に苦しかったのは覚えています」

そこから取捨選択し、因果関係の流れを整えていく作業に入ります。9割は自分で書き、学校の先生と、ときどき学年主任に見てもらっていました。

削ったのは「立派すぎる言葉」

1〜2万字から削られたものも聞きました。

「日本のGDPを変えたいとか、すべての人を幸せにしたいとか、書いてしまっていたんです。でもそれって当然なんですよね。あまりにも普遍的で、自分の色が出ない。だからその下りは全部消しました」

抽象的なビジョンではなく、自分の経験から出てきた具体的な課題設定に絞る。この判断が、途中で効いたと振り返っています。

面接で最後に聞かれたのは、そもそもの質問

面接は対話形式で、終盤はやや圧迫気味だったといいます。

実際に聞かれたことを、順に並べます。

  • 冒頭「最大7分で自由に話してください」
  • 志望理由書の内容の確認(ここはどういう意味か、やりたいことは教育なのか、など)
  • 最後に「で、結局どうして政治参加は必要なの。投票って何で必要なの」

最後の一問について、Aさんはこう話しています。

「対策では太刀打ちできない、即興を試されているな、というのはすごく思いました」

対策は「カードを3種類に分ける」

面接対策には、学校で無料で使えるノートアプリを使い、自分の経験や話したいことをデジタルの付箋にして並べていました。それを3層に分けます。

種類枚数中身
キラーカード5枚面接で絶対に言いたいこと
ノーマルカード10〜15枚聞かれたら答えること。挫折の経験、受賞に至る学びなど
アカデミックカードー読んだ論文・書籍の著者名と学んだ内容、各国の投票率などのデータ

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アカデミックカードは、「アメリカはどうなの」と聞かれたときに事実で答えられるようにするためのものです。

論文の選び方も具体的でした。ChatGPTに「自分はこう考えているが、新しい示唆をくれそうな論文、関連する知識を補強できる論文を挙げてほしい」と頼んで20本ほどリストアップさせ、要約を読み、面白そうなものだけ本文に当たる、という進め方でした。

準備の実態 ─ 塾とAIの使い方

塾で特に参考になった「過去の合格者の資料」

Aさんが塾に入ったのは、SFCを受けると決めた高3の7月末。特に役に立ったこととして挙げたのが、過去の合格者の資料です。

「過去の先輩の資料を見られたこと。本当に情報が少ないんですよね。提出資料のフォーマットも『自由』としか言われない。その自由ってどういう形式なんだろう、というのをある程度見たかった」

同時に、そこに引っかかりも感じていました。

「情報格差だと思います。塾に入れない子は、何も知らずにそのまま受験しなくちゃいけない」

ちなみにAさんの高校は、9割以上が総合型選抜で進学する環境でした。それでも塾に通っていたのは2〜3割で、学校のサポートが手厚かったためだといいます。一方で、地元の友人に総合型選抜を受ける人はほとんどいなかったそうです。同じ受験でも、環境によって前提がまったく違うという話でした。

AIは「対話相手」として使った

ChatGPTを使い、次のように活用しています。

  • 志望理由書の壁打ち(この主張を立証するには何が必要か、など)
  • 提案した制度について、批判的な意見を出させる
  • 面接の対話シミュレーション
  • 論文を探す、シラバスを読ませて要約させる
  • 日本語の誤りの添削
  • 一文の言い回しを出してもらう(志望理由書のある場面を書いた一文は、自分の好みと活動を反映させて出力させたもの)

特に多かったのは、批判的な意見を出させる使い方だと話していました。

「制度設計は専門知識が要るので、自分はこう思うんだけど、それに対する批判的な意見を出してほしい、と。じゃあその穴を埋めるにはどうしようと考えていくと、その手段が学習計画につながったり、面接当日に効いたりしました」

自分の考えを代わりに書いてもらうのではなく、自分の考えに穴を開けてもらうための相手として使っていた、という話でした。

なお、出願書類で生成AIをどこまで使ってよいかは、大学や年度によって扱いが異なります。使い方を決める前に、志望校の最新の募集要項を必ず確認してください。

Aさんが、周囲の受験生を見て感じたこと

ここからは、Aさんが同じ受験をした人たちを見ていて感じたことです。

周囲を見ていて感じた違いを2つ挙げてくれました。ひとつは、自分の実績を誇示している人は落ちている、ということ。もうひとつは、軸を持ってきちんと積み重ねているかどうか。

「どれだけの期間をかけて、どれくらいの専門家と話して、賞を取ってやってきたか。その努力の軌跡、過程があるかないかが全てかなと思います」

Aさん自身、この話には「これは本当にSFCのみの話なんですけど」と断りを入れていました。大学や方式によって見られるものは違う、という前提つきの見方です。

「実績がない」と感じている高校生へ

実績がなくて総合型選抜を諦めている高校生には何と言うか、と聞きました。

「実績がなくても受かる子はいます。SFCですら全然いる。共通しているのは、行動していること、実践があることだと思います」

Aさんの周囲には、目立った受賞歴がなくても、論文を何十本と読んだり、現地に足を運んだりして探究を深め、合格した人もいたそうです。

「情熱を起点に、行動を積み重ねてほしい。それに尽きます」

始める時期は、早いほどいい

「早ければ早いほどいい。遅くとも高3の初めには、と言うと大体『遅い』と言われるので、高2の12月には始めたほうがいい。いつからでもいいなら、高1から始めてほしいです」

Aさん自身は高1の6月に動き始めています。理由は受験ではありませんでした。

「AOとか後々のことを考えず、普通に楽しくてやっていました。そういう思いがないと3年間は続かないし、もったいない」

期間が必要な理由も、はっきりしていました。

「挫折って、期間がないとできないんですよね」

Aさんの場合は、長く活動するなかで経験した失敗や試行錯誤が、志望理由を考えるときの材料になっていました。

高校2年生へのアドバイスを1つだけ

「一歩踏み出す勇気を持ってほしい。団体を作るでもいいし、ボランティアに参加してみるでもいい。自分の好きなことや探究テーマって、いろんな社会を見てみないと気づけないんです。家から学校に行って、部活をやって帰るだけの往復では気づけない。まずはそこから一歩、違う社会に踏み出してみることが何より大事だと思います」

取材を終えて

いちばん引っかかったのは、「挫折って、期間がないとできないんですよね」という一言でした。

今回の取材で印象に残ったのは、志望理由書の書き方そのものより、その前に積み重ねてきた経験のほうでした。高1の6月から動いて、イベントを開いて、行政に持ち込んで、法律の知識が足りないと気づいて、自分の活動が届いていない相手がいると知った。3年分の時間があったから、そこで一度つまずくこともできました。

高1・高2から興味のあることに取り組んでおくと、実際に試して、失敗して、考え直すための時間を取りやすくなります。いきなり賞を狙う必要はありません。まず一歩踏み出して、小さくやってみる。うまくいかない場面に出会う。そこで何が足りないと分かったかを覚えておく。その積み重ねが、あとで書けるものになります。

クリサク塾でも、高1・高2のうちに興味のあることを見つけ、小さく行動し、そこから自分なりのテーマを深めていくことを大切にしています。

この記事の情報は、2026年8月時点の取材によるものです。入試の方式や要件は年度によって変わるため、出願の際は必ず大学の募集要項をご確認ください。